S木再び(後編)

幌加内を出発してからは美深まで峠を通り、美深市街を抜けてすぐまた峠という険しい道を通

る。この間は音楽を掛けることにした。なにせこのS木、ものごとに影響されやすく、音楽を聴

いても色んなアーティストに興味を示す。こういった人にいきなりインペリテリなどを聴かせる

のが楽しくてならない。途中の美深・雄武線(49号線)を通っているとキツネを見かけたり、

雄大な自然を堪能できるのだが、彼は寝てしまっていた。まあキツネはさして珍しくないのだ

が、普段自然に親しむことのないS木には結構新鮮かなと思っていたのだが残念だ。


やがて真正面にオホーツク海が見えてきた。雄武へ到着だ。この雄武という町は、目の前に

オホーツクを望んでいて、その反対側には牛が放牧してあるという、漁業と酪農が共存してい

る非常に自然が多い町だ。砂浜を駆け上がった丘の上で草を食む牛の姿は、河口近くでマス

を狩る知床のヒグマとどことなく似ている感じがする。


ポイントに到着したので釣りを開始。みんなウェーダーを履いている状況下の中、S木はハー

フパンツだ。まあ別になんてことはないのだが、朝が心配だ。

雄武の浜はキャンプ場などはない。わき道から砂利道へ入ったところへ車をとめ、歩いて浜へ

と下っていく。降りて右側に雄武川の河口があり、その近辺でみんなはカラフトマスを狙って

いる。始まって40分ほどで自分の竿にアタリが。先週バラしたときとは全然違う、バラさない

自信があった。1本あげてその日は6時過ぎに切り上げた。そして日の出岬にある温泉に

入った。そしてその日は早めに就寝。日の出岬キャンプ場の駐車場で潮騒を聞きながらの車

中泊となった。


翌朝、S木を気遣い予定時間よりも少し遅く午前2時半起床。車を走らせポイントへ。

普段こういった時間に起きて活動するのが彼は慣れていないらしく非常に眠たそう。しかし

釣り人においてはそういった面での妥協は許さない。強行だ。

釣り場に到着し、準備をしようと表へ出ると満点の星空。都会の空ではまず見ることができな

いほど、夜空にはものすごい数の星が並んでいる。俺も初めて来たときには感動したものだ。

なにせ天の川を見たのもそのときが初めてだったからだ。まわりの準備をしている釣り人も、

「うおっ、すげぇ星空」ともらすくらいだ。しかし、そんな気分をぶち壊す男が一人。

「なまらさみぃ、俺行くのやめるわ!車にいる」「・・・・・・・・・・・・・・・・」

釣り人からすれば信じられない言葉であった。釣りをしに来てるのに釣りをしないとは。

ましてや釣り好きを自称する者がである。しかも釣りをしない人でもお分かりかと思うが、

朝という時間は非常に重要で、釣りにおいては最も(魚種にもよるが)よく釣れる。その時間を

自ら逃すということは、かなり釣り人としてはアウトローな行為である。


案の定、彼は7時頃起きてきて、もうすでにまわりの人がたくさん釣ったあとである。俺自身も

2本あげており、一段落ついたところだった。彼はその後、上半身裸で釣り続けるもボウズ。

当たり前といえば当たり前なのだが、本人は楽しんでいたようなので、まあよかったとしよう。

その後午前9時過ぎに雄武を出発し岐路についた。


彼は今でも全然変わりなく、むしろもう少し変化つけたほうがと思うほどだ。しかし、彼のそう

いうところがいいわけでもあるし、彼の味でもある。今度彼に会うのは早くても年末年始だ。

その頃はおそらく冬の釣りには誘わないだろう。夏でこのありさまだ。氷点下10℃以下の

環境で釣りはまず無理だ。

戻る